第31話:街の灯り

常盤坂の家は、嶋崎板金さんの屋根・壁の葺き替え工事を残し、
外部の木工事を終え、いよいよ内部木工事に入りました。
段取り替えになるのでまずは大掃除です。

▲ようやく内部も 片付いてスッキリしてきました。

2件隣りの松田さんの車庫をお借りし、ものを運べるお陰で、
作業スペースも確保出来るようになり、とても助かります。
片付いたところで、鴨居上の小壁などの解体作業に入ります。

▲壁紙を剥がし、さらに秋田杉の板壁を丁寧に剥がします。

欄間部分や、本長押なども丁寧にほぐして行きます。
丁寧にほぐす事で、当時の組み方や納め方なども良く分かります。

▲欄間は吊り束を掘り込み、柱側に鼻栓をし釘を使わずに納めている。
▲床柱に掛かる本長押の裏にはチョウナの跡が残る。

小壁などを解体すると、大きなワンルームの空間になりました。
部屋の両サイドの小壁は、鴨居上を蔵収納にするので建具が入り、
部屋どうしの小壁は、鴨居のみ残しこのままオープンにする。

▲天井が通るだけで視角的な広がりが生まれる。

フレームが現れると、柱に貫を通し楔で締める『通し貫工法』の
構成がはっきりわかる。こうした日本古来の伝統工法と、明治に
入って現れた西欧の筋交いの工法が混在しているのがまた面白い。

▲構造も外観同様、和洋折衷になっている 。

伝統工法の『通し貫』〜開港からもたらされた『筋交い』〜
現代の構造用合板の『面材耐力壁』、その時代を現す構造が
グラデーションのようにこちらの壁の中に残される。

▲袖壁は貫を解体し、面材耐力壁にする。

現場も片付き、物も移動しなければならないついでに、屋根裏から
出てきた、当時の匠からの贈り物を一度広げてみた。

▲こうして見てみるとほとんどが板材。

当時、常盤坂の家を建てた時の余った材料だと勘違いしていたが、
よくよく見ると、半分位は使われていた材料。つまり解体材だった。
となると、築76年の更に前だから、相当古い材料もある。
その中でも面白いものが、下の写真。板の裏のスタンプには。

▲『東京 銀座』『札幌 資生堂』???謎が深まる。。。

そして、解体材などがとても溜まっていたので、Facebookにて、
「解体材を譲ります。」と出すと、いろんな方が材料を取りに
来て下さった。使わなかったら薪にするのだが、まだ使える物は
使ってもらったほうが良い。どうやって蘇るかも楽しみだ。この
解体材の呼びかけでいろんな出会いも生まれた。

▲木版作家のジョンはイベントの看板を作るみたい。

出会いがあれば、別れもある。隣りに一人で住んでいたお母さん。
目が不自由なこともあり、お子さんの元へと考えていた矢先に、
私が常盤坂の家を買い越して来るというので、もう少しここに
居るよ、と昨年から話していた。 しかし、先月末から目が悪化し、
ついには今日、荷物も運び引っ越された。 とても料理上手な方で、
蓬餅など作っては、窓を開けこちらの壁をコンコンし呼んでくれた。
隣りに住むのが本当に楽しみだったが、間に合わずに本当に残念。
そして、西部地区からまたひとつ夜の街の灯りが消える。
近所の方と一緒に見送る際、皆、目頭が熱くなっていた。。。

▲常盤坂の家と共に記念の一枚を是非とお願いした。(娘さん撮影)

半年ちょっとと短い間でしたが、本当にお世話になりました。
お子様のところでも末永くお元気で。

つづく。。。