▲一階には連子の出格子、二階は下見板張に持ち送りの出窓という典型的な擬洋風建築。

第1話:常盤坂の家を買うまで

来年度からの仕事にもメドがつき、春からの独立を決めたのは今年の夏のこと。
さて、次はなんと言っても独立してから自分が住む家と事務所をどうするか。
建築家としては、ここが一番気になるところでもある。
最初から自宅を借りて、更に事務所を借りる力など持ち得ていないので、
大抵の設計事務所は、事務所併用住宅などから始める事が多い。
資金もさほど無かったので、最初は賃貸しか頭にありませんでした。
義理の父に物件についていろいろ相談したところ、家賃を払っていくよりも
安い家を買って、ローンを返す方が支払いが安いと言う。
えっ!?頭になかったことなので、とても衝撃的だった。
自分の家なら、やりたいようにカスタマイズできる。
最も自分らしい選択でもあった。
『家を買う』というその一言が、このプロジェクトの始まりだった。

▲一階には連子の出格子、二階は下見板張に持ち送りの出窓という典型的な擬洋風建築。

私が函館に来たのは、今から10年前の2001年の4月。
当時は、函館の旧市街である西部地区の元町に住んでいた。
伝統的建築物保存地域に指定されているこの地域は、洋館や擬洋風建築、
教会建築など多種多様な建築が集まり、独特の雰囲気があり、
独立するならこの地域でと決めていた。
そしてこの物件に出会うまで、そんなに時間は掛からなかった。
西部地区で、安い物件。この2つの条件だけで、数件に絞られたからだ。
物件価格は250万円、諸経費込で300万円。
その物件を300万円かけてリノベーションする。

それから、ひたすらに資金集めが始まった。
私は個人事業主扱いであり、銀行で住宅ローンは組めず、暗雲が掛かり始めたが、
少ない自己資金と、親からの援助を元手とし、いろいろな方の協力もあり、
なんとか国民生活金融公庫の事業資金で融資を受ける事ができた。

そして11月18日無事に決済を終え、常盤坂の家を買いました。
『家を買う』ということを、独立前に身を持って分かったのは
大きな収穫でもあった。一人の社会人として、『家を買う』という行為は、
とても大きな勇気と覚悟がいる。それと引き換えに、
自分の家でなくては味わえない、なんとも言えない充足感を覚えた。
その余韻に浸る間もなく、自分の家だから挑戦しながら、
自分の手で直す決意を固めた。
こうして春に向けてのリノベーションは始まった。

▲夏場は連子格子越しに西日が射す。
▲和室を通し、唯一の余白でもある奥の坪庭が見える。坪庭の奥は3Mを超す石積みの擁壁。
▲階段下にキッチン、奥に裸のユニットバス、トイレ、物置とつづく。
▲2階の和室2間。窓の外には、ナナカマド並木を目の前で見られる
▲2階裏側の和室。屋根裏に床を後から張った為か、天井が低い。
▲アルターナとも呼ばれる、下屋上の物干台。

つづく