第16話:根継

暦の上では立春を迎えましたが、函館はまだまだ寒い日が続きます。
毎日朝一番に薪ストーブに薪を焼べ作業が始まります。

▲大工さんがいる現場は活気があり、なんだか暖かく感じる。

さて、ジャッキを掛け半分浮いた状態の常盤坂のは、続いて腐った
土台の入替え、腐った柱の足元の根継(ネツギ)作業へと進みます。
常盤坂の家は、土台全体の2/3は腐っていて取り替えとなります。

▲やはり木を切るのはチェーンソーが一番早い。

こちらは、大黒柱に当たる部分。 2㎝近く基礎も沈んでいた所で、
2階からの荷重が最もこの柱と土台部分に掛かってくる重要な所。
中通りのこの部分まで腐りが進行しているのは、それだけ湿気が
溜まっていた証拠でもある。 今回打ったコンクリートの土間は、
上からの荷重を均等に地面に分散する耐圧板の役割と、もうひとつ
地面からの湿気を押さえる防湿の役割もある。

▲これまで76年もの間この家を支えてきた土台と柱の勇姿。
▲土台に差さっていた長ホゾは健全だが、1/3が腐れている。

柱の足元は欠損部分も多く、腐れも中まで進んでいる状態なので、
途中で切り、継手で足す根継をする。継手は追っ掛け大栓継ぎ。

▲墨を付け、柱を切断していく津島さん。
▲氷点下のなか素手でノミを叩く逞しさ。

柱の黄色いテープの上の高さが既存の基準レベルになっていて、
青いテープの上のラインを、黄色いテープのラインまでジャッキ
で上げて柱を納めると、2階の床も水平になるという事。

▲久しぶりに継手を作る津島さん。本当の大工仕事が少ない現状。

新たに継ぎ足す柱は、新しい土台に使うものと同じ米ヒバ。
継手にも男木と女木とがあり、一方からしか組めなくなっている。

▲新たな柱脚の男木の方もカンナを掛けて仕上げる。
▲木を合わせ、微調整をしながら仮組みする。
▲新たな土台にホゾ穴を刻む棟梁。

続いて、更に腐れが酷い事になっている坪庭側の土台を取り除く為、
2階の角にあたる通し柱の部分にジャッキを掛ける。

▲ミシミシと音を立てながら家が上がっていく。

こちらの土台の外側は坪庭の土に埋もれていた。その為、坪庭の
梅の木の根っこが土台の中を通っていた。土台と一緒に根っこも
取り除く。この状況、本当に坪庭を掘り下げて良かったと思う。

▲土台の中を延びていた直径3㎝はある梅の木の根っこが見える。
▲角の通し柱。柱の半分はなく土台もスカスカ。

角の通し柱も根継するのに途中で切り落とし、土台を入替える。

▲接地面だけ先に防腐材を塗り、新たな土台を敷く。
▲中の横通りの土台も先に敷き替える。

次に中通り、長手の土台を追っ掛け大栓で継ぎ足した状態のまま、
合わせて4間半(約8.2m)もの長さの土台を敷いてゆく。

▲真ん中で継手だけで足している状態でもピンとしている。
▲とても長いので一度外へ出ないと、切り返しができない。
▲まず古い土台と新たな土台を追っ掛け大栓で継ぐ。

新旧の土台を斜めにアオりながら組み、途中の柱の下を滑らせて
中通りの土台のホゾを差し、最後に坪庭側の土台に長手のホゾが
差さるように納める。言葉では分かりにくいが、こうした作業は
新築以上 にとても弊害が多いので、継手の方法や組む順番までも
念入りに考慮しておかなければ組めない高度な技術の為、熟練の
大工の腕と経験が必要になる。

▲先端は坪庭側に敷いた土台にホゾで差さる。
▲古い土台に新たな土台が継がれた状態。

土台を入替える時、土台に差さった柱のホゾは切り落とさなければ
後から入れる土台が滑り込めない為、 この足元が最も障害になる。
通常は金物などで処理するが、木造の本来の粘り強さを活かすのに
やはりホゾはある方が良い。そこで、大黒柱の部分は当初のように
長ホゾで組めるように考えた結果が下の写真。

▲土台の柱のホゾ穴を横に長くする。通常は柱幅より一回り小さい。
▲柱からズラした側のホゾ穴にまず入れる。

長ホゾを差した状態で、スライドさせながら追っ掛け大栓継ぎが
できるようにした。 横の穴は後から埋木しダボで綴じる仕掛け。
このやり方があるのか分からないが、独自に考えてみた。

▲一部の土台が入れ替わりフレッシュになった。

まだ組んでいないが、新たに打った基礎の養生が外れるまで、
土台仮敷きのまま大工さんは少しの間、現場を抜ける事に。

そして事件が。。。

▲取り替えた土台の残骸から。。。

薪にするのに、腐った土台を切っていると、切り口から大量の蟻。

▲切ると中にいたのは冬眠中の蟻。

この土台は何処を切っても蟻が出てくる。

▲場所によっては、大量の卵まで。。。

そしてこの土台は坪庭側から取り除いた部分。。。

▲この時期には異例の、羽のついた蟻も多くいる。

もしや、シロアリに喰われていたかと思ったが、シロアリには
蟻のようなクビレは無い。山博士のファイヤピットさんに聞いた
ところ、ムネアカオオアリではという事で調べた所、そのとおり。
なんと日本では最大種の蟻のようで、朽木の中に巣を作るよう。
本当に大きいものは2㎝くらいありました。衝撃のあまりに、
すぐに薪ストーブの中へ入れていましたが、後から調べると、
なんとなんと、ネットにあるアリの専門店では、女王アリ1匹と
働きアリ10匹で3800円で取引されているでは。
そして、このムネアカオオアリはシロアリを食べるらしい。

▲腐った土台の断面。こちらにはアリはいません。

ムネアカオオアリは、冬の間は集まって巣に入っているので、
処分した土台の中に大半がいたと思われるが、 念のため他の
替えなかった土台にシロアリ駆除の薬剤を、注入する事に。
こういうものは本当に使いたくないが、アリを根絶する為に
基礎周りや新たな土台にもやっておく方がよい。
なるべく人体に 影響の少ない水性のものを選び、取り寄せた。

▲駆除にも使える安全性の高い水性の薬剤を取り寄せる。

しかし、現場に着いた時には、中身が凍結してしまっていた。
塗布前に凍結すると駆除効果が低下するということで、返品。
再度、梱包しなおしメーカーから送り直してもらう事に。

つづく。。。