第3話:浮づくりの床

厚沢部で低温乾燥された道南杉は、函館で一枚一枚床板加工され届けられました。
「茶の間」の床に敷く杉は、視覚障害者でも無垢の木を存分に味わって頂けるよう
『浮づくり』という仕上げを施すことにしました。浮づくりは、木目を浮き立たせ
滑りにくくなり、艶も増して美しくなり、傷も目立ちにくくなります。
「みんなの茶の間」として親しみやすく愛着をもって使い続けていただけるように、
『浮づくりワークショップ 』を開催しさんの手で仕上げてもらうことにしました。

木目は、夏に成長する柔らかい夏目と、冬にじっくり成長する固い冬目に分かれます。
浮づくりはカルカヤという道具で、夏目を削りながら冬目を出していく作業です。

▲少し擦るだけですぐに夏目が削れていき、これを繰り返してゆきます。

また、ワークショップでは上がり框の材料にスプーンカットという仕上げの体験も
していただきました。巾の広い彫刻刀でスプーンですくったような凹凸をつけます。
点字ではなく視覚障害者でも分かるような段差の注意喚起となります。

▲奥では浮づくり、手前ではスプーンカットを体験。

教職員さんがまずはやり方を覚えてから、視覚障害の方にも体験して頂きました。
見えなくても感触として結果が表れるので、とても良い体験になったようです。

▲入所者さんの体験の様子。面白いようで、かなり没頭しておりました。

約1週間ほどかけて教職員さんを中心に、多くの方の手を借りながら、浮づくりと
スプーンカットをしていただきました。まず、上がり框がみんなの手から、棟梁の
西村さんの手に託されました。

▲最後は棟梁の手で取り付けられます。角ダボの穴を開け、アンカーで固定します。

上がり框は、北海道産のウダイカンバという山地に生えるカバの木で、カバザクラ
と言われるように木肌が桜のように淡いピンクをした良材です。

▲穴は角栓をし平らに仕上げます。留めには契りを入れてもらいます。

最後に、稲葉係長の手でスプーンカットの仕上げをしていただきます。

▲契りや角栓、留めの部分も仕上げると工芸品のような素晴らしい框になりました。

床の下地が組み終わると、床下に暖房の配管を流します。

▲75ミリの限られたスペースで神業のように配管を取り回す池見石油の山本さん。

熱源自体は既存の熱源を活かし、温水を循環させてつかいます。

▲今回の暖房方式は、例のない新しい試みを行ないます。

床下の仕事が終わると、床にもセルロースファイバーの断熱材を吹込みます。

▲ネットを張って隙間なく断熱材を吹込んでもらいました。

一段下がった畳下地もモイスを敷き、床も下地から調湿効果を持たせてあります。

▲床には12ミリのモイス。床・壁・天井とすべてが呼吸するものになります。

いよいよ、みんなで浮づくりをした道南杉の床を敷いてゆきます。巾285ミリで
ほぼ全て赤身で揃えて頂きました。赤身は耐久性があり、暖かみもさらに増します。
木端に実(サネ)を入れ、巾広の材を無駄なく使える雇い実という工法で敷きます。

▲部屋中から廊下まで、杉の良い香りが充満しています。
▲床板はダボ穴を開けて脳天からビス打ちとします。

ビス穴は1カ所づつ杉のダボで埋め木をし、浮づくりに馴染ませ仕上げます。

▲奥の開口部分は、床下点検口として床が脱着式になります。

遂に浮づくりの床が敷き終わりました。みんなの手で浮づくりした床が大工さんの
手で敷かれ、またみんなの手へと戻されます。

▲木目も浮き上がり、良い艶が出てきました。

みんなの手の痕跡が、何よりの仕上げとして表面に浮き出ているように感じます。
機械では決して造り出せない手仕事の跡。公共建築にはなかなか芽生えない愛着。

▲ワークショップに参加してくれたカズミさんも現場を覗いてくれました。

この痕跡や経験がみんなの記憶に刻まれ、「茶の間」への愛着として引き継がれ、
末永く大切に使っていってくれればと願います。

▲浮づくりは紫外線も柔らかく吸収してくれて、茶の間は柔らかな光りに包まれます。

つづく。