第5話:匠

1階の床下調査に続き、2階の梁の調査に入ります。本畳を全て起こしました。
現在、ゴミの業者に畳を処分してもらうと1枚1000円も取られるようです。
トラックを借り、市の処分場に持って行くと33帖で1260円で済みました。
コストダウンの為には、大変ですが地道な苦労は付き物です。

▲畳の下の荒板は全て杉板だった。

畳の下には新聞紙が敷かれ、その下に荒板が敷かれています。
2階の荒板は相決り(あいじゃくり)と言って、隣り合う板同士が少しづつ
重なり合うように加工されていました。こうする事で、板が乾燥して縮んでも
隙間ができないようになっています。見えない部分の一手間ですね。
荒板を剥がしていくと、出てきたのは大きな斜めの材。

▲床下に大きなバッテンを書くように入れられている。

こちらは水平筋交いと呼ばれる手法。日本の伝統工法には、こうした斜めの
部材は使われていなかったが、明治に入って西洋から伝わった。
特に壁の少ない日本家屋にとって、このように床の強度を上げる事は、
地震や風圧などの外力に堪える上で、大変重要なこと。
昭和初期のこの家に、この手法を取り入れていた大工の見識の高さも伺える。

床を取ると、下には1階の天井裏が見えてくる。こちらも匠の技が。
天井の上には、もの凄いホコリが溜まっていて、キレイに取り除くと、、、

▲四角いコマに、棒が刺さったものが整然と並ぶ。

こちらはイナゴ天井と呼ばれるやり方。教科書に出てくるようなもので、
今では、ほぼ見られないでしょう。この刺さっている棒のようなものが、
稲につく稲子という虫に似ていることから、イナゴ天井と呼ばれている。

▲竹製のイナゴ。竹は縮まないので緩まない。

厚さ2分3厘(約7ミリ)の杉の天井板を重ねていくやり方で、
重なる部分の隙間ができないように、イナゴがついている。
重なる方の板のウラには、曲がりやすいように丸い溝が付いている。
いやいや、見えない部分にも当時の匠の技がいっぱい隠れている。

2階の梁には、最も荷重の掛かる部分に1尺2寸(36センチ)の
大きな梁が掛かっていた。柱と梁の組まれる部分の、ホゾや仕口に
緩みなどは見られるが、よくある”たるみ ”などは然程、見られない。
たるみがあると、 建具の建て付けが悪くなり戸が開かなくなる。

▲大きな梁が建物の中心に掛かっている。

建物の骨組みは、一部分は梁の増設など必要になる部分もあるが、
基本的に当時の匠の確かな仕事のお陰で、しっかりしている。

最後に、床の間の地板をそーっと外すと、
厚みは薄いが、大きな一枚板の床板だった。
ケヤキよりも目が大人しいようだ。なんだか分からないが凄い。
大きな大きな収穫^^

▲相当大きな大木だっただろう。

つづく