大屋根の家

大屋根の家は道南の駒ヶ岳山麓の自然豊かな丘陵地にあり、その環境を求め定年後の移住者が周辺に多く住まわれている。クライアントも定年後に、夫婦と柴犬、2匹の猫と共に移住してくることを決めた。敷地は南側接道で南北に長く、道路から奥へ向かい2.5m程緩やかに下っており、地表は駒ヶ岳の噴火で堆積した火山灰で覆われていた。雑木林は火山灰の表面のわずかな表土に根を張り、密集し枝を横には張れず、陽を求めて上へと伸びた不健康な状態だった。計画段階で不健全な木々は伐採し、足元にわずかに残っていた健康な中低木を活かすこととなった。また、伐採した太い木は地元の製材所で太鼓に挽き外構の枕木に再利用し、残りは薪ストーブの薪として大切に再利用する事とした。前面道路は比較的交通量がある為、建物は静かな北側に寄せ、要望にあったカーポートや遊歩道、ドッグラン、ウッドデッキ、家庭菜園などを採光と緩衝帯を兼ね敷地南側に配した。この三角の大屋根はクライアントの心象風景であった。

南側は全面吹抜けとして深部まで採光を確保し、そこに猫達の為にキャットウォークを設けた。家の中心に階段を掛け、外周に部屋を配しコンパクトな動線と外周四面からの通風&採光を確保した。軸組の米ヒバと米松以外は地元の木材を多用した。道産楢の無垢天板を使ったキッチン、道南杉の造付木製ソファやテーブル、建具等は、床や外壁の余剰分を上手く使い、大工の手でローコストに製作している。

家の中心でもあるダイニングには、鹿部町の町名の由来でありアイヌ語の『シケルベ』=『キハダのあるところ』という事から、先住民族アイヌが神聖な木としていたキハダを使ってテーブルを製作した。クライアントが移住先である鹿部の地で、この地域と家に愛着をもって末永く暮らせるよう、素材の産地や作り手の顔、手造りの痕跡が見えるような家造りにこだわった。