第12話:引き算のデザイン

このところ続いた土いじりも一段落したので、少し木に触れる事に。

▲一坪の玄関には、梅の透かしのある可愛いペンダント照明が。

写真に見えるこちらの板壁は大和張りと言う張り方で、他の板壁より
特別に幅が広く表情の良い、杉の木の板目を使っている。

▲76年の時を経た表情は唯一無二のもの。

他の板壁は鉄釘なのに対し、こちらは全て真鍮釘で打たれており、
常盤坂の家の中でも最も格が高い壁になっているのが分かる。
ここは特別慎重に板を剥がしてゆく。真鍮釘も大事に保管して
また、新たに再編集するように活用する。

▲大和張りは通風を目的にするが、こちらは意匠的に用いられている。

そして、この板を留めている横に走る木は、横貫と言う部材で、
常盤坂の家では、この横貫が柱を貫通し、柱と柱を繋いでいく
「通し貫 工法」という伝統工法で壁が組まれている。

▲柱を横貫が貫通していて、上から楔で締めている。

通し貫は、柱と貫の貫通部が潰れることで、地震による揺れを
吸収する柔構造で、逆に筋交いは揺れに対して踏ん張る剛構造で、
ここでは、どちらも併用している。 当時の匠のこだわりが分かる。

▲横貫は1階だけで横に5段、2階にも5段入っている。

続いて、中の間にある構造上、効いていない柱を抜く作業。
まず、周りに付いている壁を解体してゆく。

▲間取り上いれられた柱であろうか。

釘を打ちつけた方に、反対から叩くと釘が抜け簡単に柱は外れた。

▲天井の廻り縁という材までしか柱はない。

今回のリノベーションでは、付け加えるというよりも、削ぎ落とす
というのが念頭にある。耐震補強や断熱補強といったものは付加し、
その他は、引き算の手法でデザインを固めていくことで、コストを
抑え、セルフビルドによる質の低下を防ごうと思っている。

下の写真は、道路正面にある連子格子の下の壁を中から剥いだ所。
道路から見ると、連子格子の下には「ささら子下見」と呼ばれる
板壁になっているが、その裏にはしっかり漆喰が塗り込められて
ある。函館大火の後に建てられただけあり、防火の意識もあった。

▲木摺に塗り込めた漆喰が中から見える。

下の写真、柱の上から横に留めた長押という部材は、書院風和室
などで良く見かけるもので、上から留めるこちらは本式のもの。
昔々は構造的に柱を繋ぐものだったが、今では意匠的なものに。

▲和室で良く見かける長押は、よくフック等を掛けたりしていた。

本式のものは、鴨居の上に載せて上から釘で固定している為、
下に当て木をして叩くと釘が抜け浮き上がってくる。

▲柱の部分は溝に入っているので、楔等で柱から前に浮かせてやる。
▲本長押が外れた柱の様子。柱には溝が付いている。
▲柱の部分の長押の裏側、三角の欠き込みの所から釘で留めている。

長押は少し格のある和室に用いられるもので、常盤坂の家では
1階は事務所なので、格式を崩す意味でも長押は外す方が良い。
残すところ、削ぎ落とすところのバランスも引き算のデザイン。

▲長押を外したすっきりした様子。

こちらは、土台と基礎の水平をチェックしている様子。レーザー
の赤いラインからの高さを計りチェックしていく。
地盤はしっかりしているので、狂いはほとんどないが、大黒柱の
周辺が荷重が掛かるので、少し沈んでいた。

▲赤いラインが水平と垂直を現している。
▲使えなかった湯沸器とガス管の撤去に来たフレアストの佐藤さん。
▲土間下に埋め込む水抜栓をファイヤピットさんに上げてもらう。
▲基礎の補強工事に向け片付けを進める。
▲排出されるのを待つ黒土たち。

さあ、いよいよ基礎補強工事へと続きます。