厚沢部で低温乾燥された道南杉は、函館で一枚一枚床板加工され届けられました。
「茶の間」の床に敷く杉は、視覚障害者でも無垢の木を存分に味わって頂けるよう
『浮づくり』という仕上げを施すことにしました。浮づくりは、木目を浮き立たせ
滑りにくくなり、艶も増して美しくなり、傷も目立ちにくくなります。
「みんなの茶の間」として親しみやすく愛着をもって使い続けていただけるように、
『浮づくりワークショップ 』を開催しさんの手で仕上げてもらうことにしました。
木目は、夏に成長する柔らかい夏目と、冬にじっくり成長する固い冬目に分かれます。
浮づくりはカルカヤという道具で、夏目を削りながら冬目を出していく作業です。
また、ワークショップでは上がり框の材料にスプーンカットという仕上げの体験も
していただきました。巾の広い彫刻刀でスプーンですくったような凹凸をつけます。
点字ではなく視覚障害者でも分かるような段差の注意喚起となります。
教職員さんがまずはやり方を覚えてから、視覚障害の方にも体験して頂きました。
見えなくても感触として結果が表れるので、とても良い体験になったようです。
約1週間ほどかけて教職員さんを中心に、多くの方の手を借りながら、浮づくりと
スプーンカットをしていただきました。まず、上がり框がみんなの手から、棟梁の
西村さんの手に託されました。
上がり框は、北海道産のウダイカンバという山地に生えるカバの木で、カバザクラ
と言われるように木肌が桜のように淡いピンクをした良材です。
最後に、稲葉係長の手でスプーンカットの仕上げをしていただきます。
床の下地が組み終わると、床下に暖房の配管を流します。
熱源自体は既存の熱源を活かし、温水を循環させてつかいます。
床下の仕事が終わると、床にもセルロースファイバーの断熱材を吹込みます。
一段下がった畳下地もモイスを敷き、床も下地から調湿効果を持たせてあります。
いよいよ、みんなで浮づくりをした道南杉の床を敷いてゆきます。巾285ミリで
ほぼ全て赤身で揃えて頂きました。赤身は耐久性があり、暖かみもさらに増します。
木端に実(サネ)を入れ、巾広の材を無駄なく使える雇い実という工法で敷きます。
ビス穴は1カ所づつ杉のダボで埋め木をし、浮づくりに馴染ませ仕上げます。
遂に浮づくりの床が敷き終わりました。みんなの手で浮づくりした床が大工さんの
手で敷かれ、またみんなの手へと戻されます。
みんなの手の痕跡が、何よりの仕上げとして表面に浮き出ているように感じます。
機械では決して造り出せない手仕事の跡。公共建築にはなかなか芽生えない愛着。
この痕跡や経験がみんなの記憶に刻まれ、「茶の間」への愛着として引き継がれ、
末永く大切に使っていってくれればと願います。
つづく。