初めて視力障害センターを訪れたのは5月中旬、まだまだ新緑の季節だった。
居室棟の2階にある一室を、無垢材や自然素材を使って居室から談話室にしたい、
というお話だった。最初のメールで、すぐに担当者の並々ならないプロジェクトに
対する熱意と情熱、自然素材や無垢材に対するこだわりを感じ取ることができた。
フィトンチッドという言葉も、担当者の稲葉さんから初めて教わった。
最初に部屋に案内された時に、大きな窓の半分以上を塞ぐ蓄熱暖房ユニットの存在が 、
この部屋で最も気持ちの良い部分を駄目にしているのがすぐに分かった。
その暖房器具の扱いが、その後の「茶の間」の設計に大きなハードルとなった。
そして、それを解決してくれたのが下の写真の謎のタワシのようなものだった。
こちらは追々説明するとして、窓辺の気持ちの良い場所を縁側のような空間にし、
その手前にちゃぶ台を囲む「茶の間」を設けるようなプランになった。
そして、このような公共建築の中で無垢材を使うにあたって、一体、無垢材 って
どんなものなのか、視力障害センターの方々を厚沢部にある鈴木木材にご案内し、
実際に見て触れて、鈴木さんの話しを聞いて頂くことにした。
床は比較的丈夫な赤身の部分だけを使って、巾1尺近くのもので揃えてもらう事に。
弱視者の為に、この赤身の床とコントラストをつけるよう、家具などにはホオの木、
イタヤカエデの木などを実際に木目を見て決めていただく。
原木の説明を受けた後は、実際に製材した板の展示室へ。
そして鈴木社長の自宅では、実際に生活の中でどのように無垢材が使われているか
見学させて頂きました。
こうして、みんなで使う「茶の間」の無垢材を実際に見て選んでいただきました。
低温乾燥された無垢の木は 、集成材や建材などと違い、フィトンチッドという木が
本来持っている消臭・脱臭効果、抗菌・防虫効果やリラクゼーション効果 などを
期待できる一方、木の素性などで反りや割れなども入り易かったりもするのですが、
長所も短所も含め、まずは木を理解してもらうのが何よりも大事だと思いました。
後日、「茶の間」で使われる材料は鈴木さんの手で製材され、鈴木さん特製無垢の
木で出来た低温乾燥室にて、低温で優しく乾燥にかけられました。
乾燥が上がった道南杉の床材は、その後、川崎木工さんに送られ30ミリの厚さに
カンナ掛けをし巾を285ミリで仕上げ、雇い実加工をして床板になっていきます。
こうして一枚一枚人の手で加工され、ようやく視覚障害センターに運ばれます。
この道南杉の床板は、最後は視覚障害センターの皆さんの手を加え『浮づくり』で
仕上げをしてから「茶の間」の床に敷かれます。 床に浮づくりをすることで、
滑りずらくなるのと、より脚触りが良くなります。
そして工事に先立って、「茶の間」の主になるちゃぶ台の製作も行なわれました。
ちゃぶ台には、北海道産の栗の木をつかっています。板の接ぎ合わせを膠(にかわ)
という自然素材で行なう為、気温が5度以下になる前に製作してもらいました。
ちゃぶ台には、道産の亜麻仁油を塗って仕上げになります。
そして、ウダイカンバという樹種でできた上がり框も製材されカンナ掛けまで
仕上がりました。こちらも視覚障害センターに運ばれ皆の手でスプーンカットで
仕上げていただきます。
こうして11月25日いよいよ「茶の間プロジェクト」も着工を迎えました。
来年度で、函館視力障害センターも50周年を迎えます。
それに向けて動き出したこの「茶の間プロジェクト」も書き切れないほどの検討を
重ねてきました。これからの50年も、少しでもみんなから愛着をもって使って
いただける温かな空間を目指して、これからが本番です。
わずかな面積と工事期間ですが、みんなの想いは盛り沢山です!
つづく。