第10話:杉のやさしい木肌

外部工事も一段落して、これから中の工事に入っていきます。
連休明けから大工さんが外壁を張っている間、内部では電気の
配線工事が着々と行なわれておりました。

▲大屋根の下を配線する外山電工さん。

そして、道南は知内町にある岡田木材さんから大屋根の家に敷く、
知内産の杉の床板が運び込まれました。
大屋根の家1階の床は、約半分が土間(タイル)になり、風呂
トイレ以外残りが厚さ36ミリの分厚い無垢の杉板になります。

▲雇い実(やといざね)加工した杉板の木口(こぐち)。

一般的な無垢のフローリングは15ミリ前後なので、約2.5倍の
厚みがあります。足裏の感覚は、特に敏感なのでこの床の厚みの
違いはすぐに分かります。 杉の木肌はとても柔らかく、それゆえ
断熱性にも優れていて冬は暖かく、夏はひんやりして年中裸足で
過ごすことができる数少ない床板といえます。そして、柔らかい
杉は膝にとても優しい床板でもあります。

▲大引を敷いて行く棟梁の西村さん。

私が外壁の防腐塗装を始めると同時に、床の工事が始まりました。
まずは、上がり框から順番に敷いていきます。

▲実(サネ)のベニヤを入れていきます。

クロークの戸の敷居も同じ床板に、敷居溝を突いていきます。

▲杉の床板に、敷居溝を突く棟梁。

溝を突いた敷居を敷き、実のベニヤを入れていきます。

▲2本の溝が突かれた敷居兼床板に実を入れている。

雇い実の床は、板と板の接合面にお互いに溝を突いて、その溝を
またぐように一枚の実を入れて張っていく方法で、板に板を被せ
たり、差したりする他の張り方よりも、板の幅を無駄無く使える。
実が入る事で、隣りの板の反り上がり等の狂いも抑制できます。
また、無垢の板は呼吸をして年間を通して調湿してくれますが、
板が縮んだり伸びたりを繰り返す際、隙間を実が埋めてくれます。
まさに分厚い無垢の幅広の板にはもってこいの張り方です。

▲実を入れる前に、忍び釘(しのび)を打ち板の突きを良くする。

板には、皮に近い側の木表と芯に近い木裏という表と裏があり、
表側が乾燥して縮むため木表側に反り返るので、床を張る時には
木裏を上にして張っていく方が、後からの狂いが少ない。ただ、
木裏は節が多く、表の方が木目が綺麗なので、好みは分かれる。
今回は、土壌蓄熱暖房の影響も考慮して全て木裏で張っていて、
呼吸による伸び縮みに逆らわないように、釘もなるべく端から
離して打ってもらった。端過ぎると、板が縮む際に釘の部分で
木が負けて割れてしまうことがある。

▲幅6寸の板の、両端から1寸5分にダボ穴の脳天釘打ち。

木目の綺麗な板を選び出し、綺麗な板から順に張っていく。
同じ板を張っても、少しの気配りで出来上がりの印象が変わる。

▲左のリビング、右の寝室と一枚一枚張り進める。

奥の最後の一枚には裏に防虫網を張り、土間の湿気抜き用の
空気穴を開けておく。 基礎を外断熱にした場合の湿気対策。

▲ダボ穴の大きさで開けた湿気抜きの穴。

敷き終わると最後にダボ穴を1カ所づつ檜の丸棒で埋めていく。

▲ダボ埋めをし、最後にヤスリを掛けて仕上げる。

こうして、1階の分厚い無垢の杉床張りが終了。

▲やさしい表情の一階の分厚い無垢の杉板。

つづいて2階の床へ。2階の床は24ミリの構造用合板の上に
12ミリの無垢の杉板を張っていきます。 こちらは本実加工。

▲本実(ホンザネ)加工の杉板の木口。

本実の床は一般的なフローリングにも用いられている加工で、
片側が雄、もう一方が雌になっていて、雄の実から斜めに釘を
打ち留めてから、雌側を差しながら張っていくので釘が表には
出て来ない。薄くて幅の狭い板に向いた張り方。

▲まずは敷居溝を突いた板から張っていく。

こちらも忍び釘を打ちながら、木目の良い板から順に張り進める。

▲当て木をしながら、実に押し込んでいく。

こちらは、施工性も良く一気に敷き終わる。

▲杉の木肌は、人肌にも近いやさしさがある。

床が敷き終わると、傷が付かないようにしっかり養生をします。
無垢の床の中でも、杉はとてもデリケートで傷つきやすいので
敬遠されがちだが、この傷を味わいとして享受できるのは 無垢の
板ならではである。 小さな傷はやがて無数の痕跡として時を刻み、
やさしい杉の木肌ならではの、表情豊かな味わいを深めていく。
この変化を楽しむのも、無垢の家ならではの楽しみ。

▲大屋根の下、2階ロフト部分。

こうして床が敷き終わると、いよいよ壁、天井と進み内部空間が
一気に現れてゆきます。

つづく。