第36話:プリコラージュ

常盤坂の家には仮設トイレもなく、いつも近くの
ドラッグストアさんにお世話になっています。
だから早くトイレが欲しい、ということで
1階のトイレから作りあげていきます。

▲元はキッチンがあった場所がトイレに。

サッシは元もと付いていたもので、その上のまぐさ(梁)が
2階角の柱になっていて、5寸の梁だけで受けていたので、
この梁に補強を入れながら窓辺を心地よくしていく。
まず、この出窓の樹脂の部分を隠すように窓枠を内側に組む。

▲こちらは近所で解体された家の古材を活用。

さらに内側に古材の土台を付けたし、柱を建て、枕梁を加える

▲7寸の梁を横に五平に使って枕梁を入れる。
▲枕梁の木肌は、長い年月と煤で黒光りしている。

新たに付け加えた窓台の下は、下地を組み断熱材を施工。

▲なにやら怪しい四角く切った部分はニッチ収納。

窓下の壁を張り、ニッチ収納部分に木のボックスを嵌め込む。
手前の柱間には、差し鴨居と敷居を入れ引き戸になるように
袖の薄い壁の下地をくむ。差し鴨居は込み栓と楔で固定した。

▲現在の自宅のトイレで使っていた自作の障子が目隠しに納まるように作っていた。
▲壁を張り、床下地合板を仮敷きし何となく出来てきた。

そして、これからがメインイベント。
独立前の師匠の元にいた修行時代に、現場で出た木の切れっ端を
現場の掃除をしながら拾っては、樹種サンプルとして集めていた。
切れっ端だが、ひとつひとつに想い出がある。

▲楢、樺、欅、栗、杉、唐松、楓、セン、タモ、アサダ、ニレ、etc。

それと、常盤坂の家の屋根裏から出てきたお菓子などの木箱や、
木のフタ、表札などのいろいろな木々のコレクション。

▲紀州有田、千秋庵、棒二萩野呉服店、佃煮などの木箱。

自分の積み重ねて来た記憶、常盤坂の家の積み重ねて来た記憶を
融合させ、窓下の壁にコラージュします。

『プリコラージュ』とは、見近に手に入るものやあるものを活かし
新たな価値を見出し作っていく手法で、古民家のリノベーションを
する上でもとても重要な手法で、常盤坂の家でも念頭に置いている。

トイレのような小さな空間では、そうした”遊び”をいれるのに
ちょうどいい大きさで、じっくり鑑賞も出来る。

まず、手洗いのカウンターを3枚の候補の板から、最も馴染む
蔵の板戸の切れ端に決め、これを要に構成していく。

▲釘の跡などが生々しい重厚感ある楢の板。

切れ端のコラージュには、自分なりの3つのルールを決める。
①縦の目地は通さないよう、水平目地を強調する。
②同じ樹種が隣り合わないようにする。
③隣りとの厚みを揃えない。

▲このコラージュは設計図はなく、頭のイメージで現場一発勝負。
▲木は全て”忍び釘”といって見えなくなる部分から打ち込み固定。

貼るというより、積み上げる感覚。
この3つのニッチは、一番下がペーパー入れ、左上がスプレー等の
備品入れ 、右上がアメニティ入れになっている。

▲埋まってくるにつれ、バランスが難しくなって来る。

と、ここらで、必要になるアイテムを作りに鉄人の元へ。

▲屋根裏から出た可愛いバケツに、解体で抜いた釘等を貯めていた。

来たのは、杉本洋鍛冶工房。常盤坂の家の一部を解体する時に
かすがいやU字のピンなどがでてきたので、それを使う。
まずはU字のピンを曲げて ペーパーホルダーを作ってもらう。

▲バーナーで炙り真っ赤になったところを叩いたり曲げたり。。。

つづいて、かすがいでハンドルをアドリブで作ってもらう。

▲ツイストしたり、鉄が面白いほど形を変えていきます。

そして最後に蜜蝋を塗って出来上がり!
さすが鉄人杉本さんです。ありがとうございます!

▲左上ペーパーホルダー、右かすがいハンドル、左下おまけに頂いた釘。

そしていつからやっているのか、、ようやく コラージュ完成。
その全容を少し紹介いたします。

トイレ入り口の片引き戸は、昔のトイレの引違い戸を転用。
2階の和室にあった欄間は片側障子を張って入れ込む予定。

▲トイレの塗り壁が終わったら、天井に剥がした杉板を張る。

手洗いは、床下から出てきた素焼きの植木鉢を転用します。
右上の出っ張りに鏡スタンド、その左下の緑青した胴板を張った
出っ張り部分はハンドソープを置く台になっている。

▲壁には常盤坂の家コレクションの紀州有田の木箱のフタ。
▲正面真ん中の小さな四角は今は無き『函館 精養軒』のフタが。
▲カウンター下にも、さり気なくコレクションをコラージュ。
▲ 備品入れの戸は、屋根裏にあった『M.YOSHIMOTO 1946』 の絵。
▲備品入れの中地は、銀座三越の佃煮の木箱のフタ。

そして、一番下のニッチの上には、横長の少し大きめの真樺の木が
アームレストになっていて、その右下にペーパーホルダーが。

▲画面右上には、小さく『宝来町 千秋庵』のフタもコラージュ。
▲真鍮釘を打った手作りのツマミを捻れば、ペーパー入れに。

無作為のようにバラバラに見せ、必要なところにあるべきものを
しっかりと配置する。さらにそれを自然に見せる。
ある材料、ある資源を使い作り上げる。『プリコラージュ』は
西洋の考え方であるが、日本にも同じような千利休の『見立て』
という手法があるように、かつてはそれがアタリマエだった。
好きな物はお金を出せば、簡単に買える今の時代では、時間と
手間が掛かりなかなか難しいのだが、 プリコラージュする事で、
常盤坂の家が重ねてきた”時の記憶”を未来に繋いでゆける。

▲この壁は、常盤坂の家というストーリーの新たな1ページかな。

そんな想いを大事に設計をしていきたいと常々思う。

つづく。