第1話:再生までの道のり

大正10年に仁寿生命の函館支店として建てられたと言われる旧仁寿生命。直線を強調した中に柔らかい曲線美を取り入れたユーゲント・シュティール様式の白いスタッコ塗りの事務所棟と、函館山側の正面左に隣接した土蔵を、幾何学模様の持ち送りで屋根を支える平屋の玄関で繋ぐ構成になっている。設計は確証はないが、当時から全国の仁寿生命の支店も手掛けユーゲント・シュティール様式を得意とした関根要太郎・山中節治の設計ではないかとされている。坂下からの見上げを意識し角に丸みを与えて正面性を持たせ、漆喰による額縁を回し、上部にレリーフが整然と並びブラケットの行灯が象徴的に取り付けられている。内部の壁面は縁取りされた腰板とモールディング、天井は鋼板を打ち出した装飾が施されている。2階の応接の天井は折り上げの格天井になっており格式高い。天井いっぱいの縦長窓の連続がモダンな空間を際立たせている。この事務所棟と土蔵の奥に続くように母屋が増築されこちらを住居として、事務所棟と土蔵は倉庫として使われていた。

▲大三坂下から見上げた旧仁寿生命。2015年11月の様子。

この貴重な建物の相談が箱バル不動産の苧坂を通じて寄せられたのが2015年11月。事務所棟や土蔵は雨漏りが酷く老朽化が激しいので建物を壊して更地で売れるかというものだった。箱バル不動産の誰もが、いつかこの建物を再生したいという思いで見つめていた建物の所有者からの相談に驚き、すぐにみんなで伺った。

▲初めての内覧時の様子。

期待以上の建物の素晴らしさに胸を打たれるのと同時に、長い間雨漏りしており床や天井のいたるところが崩れ老朽化の激しさにショックを受けたが必ず守りたいという想いを胸にした。規模の大きさや改修の難しさから活用への道のりは難航が予想されたが、私たち箱バル不動産を全面的にサポートしてくれていた蒲生商事が自ら再生を名乗り出て、すぐに建物の活用を前提にした提案内容をまとめ、所有者の元へ何度か交渉に伺いついに了承を得られた。

▲再生への想いを抱き海を見下ろす箱バル不動産の蒲生と苧坂。

そしてこの建物は伝統的建築物の指定を拒んでいたため候補物件で留まっていたが、蒲生商事が申請を行い2016年7月事務所棟と土蔵が函館市では63番目の伝統的建造物に指定された。しかしその矢先、8月末に北海道を襲った猛烈な台風10号によって事務所棟の屋根の一部が飛ばされ壁も更に崩れ落ち、土蔵の屋根を支える漆喰も剥落し玄関の屋根や道路に崩れ甚大な被害を受けてしまった。

▲土蔵の漆喰が剥落。。。

土蔵も以前から瓦が落ちていたり部分的に漆喰が落ちていたが、台風によって大々的に崩れてしまった。
事務所棟の外壁も崩れてはいたが、更に落下し、パラペットの笠木もその多くが風で飛ばされた。

▲パラペットの笠木が飛ばされ、外壁のモルタルが崩れ、、、
▲屋根の上には瓦礫が散乱。。。
▲所々に陥没の跡が、、、。
▲その下の玄関の内部は天井も落ちている。

更なる壁の落下の危険から警察の立ち入り禁止テープも貼られ、事件でもあったかのような時期もありました。
伝統的建築物なので簡単な処置はできず、その修復には莫大に費用も掛かる為すぐには手を付けられず、ご近所さんや多くの歩行者に迷惑をかけてしまった。

▲台風10号の影響で屋根の一部が飛び壁が崩れ危険な為、警察がテープを貼っている様子。

前所有者の新たな引越し先を蒲生が探し周っていたが全部の建物を埋め尽くすほどの量の荷物があり、それが収まる物件はなかなかなく、断捨離などにも時間が掛かった。箱バル不動産でも、不要になった品々の中から活用できそうなものを頂き、次に活かすことになった。前所有者の行き先も決まり、引越しと荷物の処分も終わり2016年10月末にようやく完全に引渡しが終了した。

▲ようやく足場が掛けられ、落下の危険は無くなったが。。。

11月になりようやく足場を掛け瓦の仮復旧をし土蔵の土壁をシートで覆い、

▲落ちた瓦を再度組み直す。
▲シートで漆喰を覆い、瓦の落下も防ぐ。

飛ばされた事務所棟の屋根部分にシートを被せ、道路にまで剥落していた外壁の剥落しそうな部分を搔き落としネットとシートで覆って落下防止を行い、

▲飛ばされた笠木をシートで覆い、壁はネットで養生。

陥没し穴が空いていた玄関の屋根は、屋根垂木や野地板など全て撤去。

▲下地も含め腐食が激しかった玄関の屋根。

垂木は当初より太くして入れ替え、母屋や梁、腐食した柱などの補強を入れてゆく。

▲こうした隅が最も腐食していた。

冬の工事は天気も変わりやすくスピードとの戦いでもあった。

▲新たな屋根の下地もできこれで当面は安心できる。
▲新たに葺き変わった玄関の屋根。

こうして2016年の応急処置の工事がひとまず終了した。
本当はすぐに全てを直せればいいのだが、国の補助なども受けて工事を進める為、2017年4月末に許可申請が降りるまで着工できないのが、いわゆる伝建の難しいところでもある。。。伝統的建築物に指定された事務所棟と土蔵の大規模な修復工事は5月から11月まで続き、12月にグランドオープンを目指しております。こちらはカフェや物販をメインにしたテナントになり、現在テナント募集しております。
また、事務所棟と土蔵の裏に続いて建て増しされていた母屋には蒲生商事と箱バル不動産が共同運営するゲストハウスを12月にオープンさせます。地域で暮らす箱バル不動産が運営することで新たな交流を生み出し、ここを訪れた人が移住をするキッカケが作れたらと思っています。伝統的建築物に指定されていないゲストハウス部分は用途変更の確認申請が下り次第着手できる。仕上げや造作の大部分は自力で工事を進める為、この冬の1月末から先行して工事を始める予定です。工事に際して、リノベーションのワークショップなども計画していきますので、随時お知らせしていきます。我こそはという方は今からでもご連絡お待ちして下ります。

2017年、いよいよ『大三坂ビルヂング』のリノベーションの幕開けです!

▲2016年12月31日、大晦日の大三坂ビルヂングの様子。